本作は、日本の詩人・童話作家、宮沢賢治(1896~1933)のテキストを基に、オルガン演奏と3人の朗読者による朗読が交互に織りなされる。「光のオルガン」というタイトルは、詩集『春と修羅第二集』所収の1925年作『告別』の「ちからのかぎりそらいっぱいの/光でできたパイプオルガンを弾くがいい」という詩行から由来する。この年をもって賢治は、四年勤めた花巻農学校の教員の職を辞している。『告別』は、教壇を離れ農民と共に生きる覚悟をした賢治が、卒業し社会に旅立つ生徒に向けてこの記しながらも、なにより自身を鼓舞しているようにも読める。その数年前に、賢治は最愛の妹トシを亡くしている。彼は妹の魂の行方をもとめ、一時期オホーツクを旅した。本作は、『告別』を記すに至る賢治の彷徨を辿るが如く、愛する者への哀悼の名詩『永訣の朝』、妹の魂を探す旅路を垣間見る未完の童話『サガレンと八月』、賢治の理想郷イーハトーボが圧倒的筆致で綴られる詩『山の晨明に関する童話風の構想』からもテキストを引用する。3人の朗読者はそれらテキスト断片を、時に語り手、時に風、時に農学校の学生となりながら、朗読していく。オルガンは冒頭に渦巻くような光の音を放つも、賢治の想念と言葉に呼応しながら次々変転していく。賢治をとりまくさまざまな「告別」が、言葉と音楽双方ではげしく錯綜した後、いつしか舞台は『銀河鉄道の夜』の世界へ。1912年に起きたタイタニック号の悲劇は、青年の賢治に大きな衝撃を与えていた。妹の魂を探していた賢治はやがて、死者をのせた銀河鉄道を星空に走らせ、船と運命を共にした青年を登場させたのだった。青年の語る、鬼気迫る船上での出来事…真っ暗な絶望の淵に、人々が唱えた讃美歌が「光」をともしていた。銀河の旅を経て「ほんとうのさいわい」をもとめて歩もうとするジョバンニに、詩『告別』での賢治の姿が重なる。遠くに燃える蠍の赤くさびしい光が、此岸と彼岸の間を照らす中、冒頭に聴こえた強い光の音は、次第に淡くこだまの様に響き、銀河の果てを永遠に旅する者たちを思いながら、音楽は秋の予感を漂わせつつ静かに終わる。