「報凶問歌」の「筆不尽言」と一字一音の歌と―旅人にとっての歌とは何か―
本稿は、『万葉集』巻五冒頭の「報凶問歌」に付された書簡文末尾の定型句「筆不尽言」に注目し、その典拠である『周易』孔穎達正義における字義と音との地域差に関する言説を手掛かりとして、歌における一字一音表記の特質を考察する。諸地域間における言語の相違と文字の音・意味の関係に対する理解が、歌表現における表記意識にどのように反映されているかを検討し、上代知識人の言語観の一端を明らかにする。
『古代文学』
古代文学会
47号